「本人は困っていない」と言うけれど――引きこもりの支援は、誰のためにあるのか?
「息子が何年も引きこもっています。でも、本人は困っていないと言うんです」
「親としては将来が心配なのですが、本人は働くつもりもないようです」
「相談に連れていきたいのですが、本人が必要ないと言っています」
引きこもりについてのご相談では、こうしたお話を伺うことがあります。
保護者の方は、本人の将来を心配しています。
このまま仕事をしなければ、将来の生活はどうなるのだろう。
親が高齢になったら、誰が生活を支えるのだろう。
人との関わりが少ない生活を続けていて、本当に大丈夫なのだろうか。
しかし、本人にそうした不安を伝えても、
「別に困っていない」
「放っておいてほしい」
「自分の人生なんだから、関係ないだろう」
と返されてしまう。
こうした状況では、家族と本人の間で、そもそも何が問題なのかという認識が一致していません。
では、本人が困っていないと言っているとき、支援は必要ないのでしょうか。
今回は、引きこもりの本人と家族の間にある「困りごとの違い」について考えてみたいと思います。
「困っていない」と「問題がない」は同じではない
まず考えておきたいのは、本人が困っていないと感じていることと、客観的に問題が存在しないことは、必ずしも同じではないということです。
例えば、仕事をせず、家族の収入によって生活している成人の方がいたとします。
本人にとっては、現在の生活に大きな不満がないかもしれません。
しかし、保護者にとっては、経済的な負担や将来への不安が大きな問題になっている可能性があります。
また、本人自身も、現在は困っていなくても、将来的には生活上の困難に直面するかもしれません。
ただし、だからといって、本人が「困っていない」と話していることを、最初から否定してよいわけではありません。
本人には本人なりの生活があり、その生活に対する感じ方があります。
本人が困っていないという事実も、家族が困っているという事実も、どちらも尊重される必要があります。
ここで重要なのは、どちらの認識が正しいかを決めることではありません。
それぞれが何に困り、何を望んでいるのかを整理することです。
「困っていない」という言葉の背景にあるもの
本人が「困っていない」と話すとき、その言葉にはさまざまな意味が考えられます。
本当に現在の生活に満足している場合もあるでしょう。
一方で、困っていることはあっても、それを言葉にすることが難しい場合もあります。
例えば、過去に就職活動で何度も失敗した経験がある人にとって、「働きたい」と口にすることは、再び失敗する可能性と向き合うことを意味するかもしれません。
人間関係で傷ついた経験がある人にとって、「外に出たい」と認めることは、もう一度人と関わる不安を引き受けることにつながるかもしれません。
そのようなとき、「別に困っていない」という言葉が、つらい感情から自分を守る役割を果たしている可能性もあります。
ただし、すべての人が本心を隠しているわけではありません。
「困っていない」と言っている人に対して、
「本当は困っているはずだ」
「自分の問題から逃げているだけだ」
と決めつけてしまえば、かえって本人との関係が難しくなることもあります。
大切なのは、言葉の裏にある本音を暴こうとすることではなく、本人が自分の考えを安心して話せる関係をつくることです。
「本人のため」と「家族のため」は一致しないことがある
引きこもり支援では、本人と家族の希望が一致しないことがあります。
本人は今の生活を続けたいと思っている。
保護者は、少しでも早く働いてほしいと思っている。
このとき、支援者が保護者の希望だけを受け入れてしまうと、本人にとって支援が「自分を変えようとするもの」になってしまうかもしれません。
反対に、本人の希望だけを尊重して、家族が抱えている負担を考えなければ、それも十分な支援とはいえないでしょう。
例えば、成人した子どもの生活費を親が負担し続けている場合、親には自分の生活や経済状況を守る権利があります。
本人の意思を尊重することは、家族が際限なく負担を引き受けることを意味しません。
だからこそ、引きこもりの支援では、本人と家族の希望を無理に一致させるのではなく、それぞれの立場を整理することが必要になります。
「本人は今の生活をどう考えているのか」
「家族は何に困っているのか」
「現在の生活を続けるためには、どのような条件が必要なのか」
「お互いに譲れることと、譲れないことは何なのか」
こうしたことを考えることも、支援の一部です。
本人が相談を拒否しているなら、家族だけで相談してもいい
「本人が相談に行く気にならないので、何もできません」
そう感じている保護者の方もいらっしゃると思います。
しかし、引きこもりの支援は、必ずしも本人への直接的な働きかけから始まるわけではありません。
家族が本人との関わり方を整理することも、支援の一つです。
例えば、親子の会話が就職や将来の話ばかりになっている場合、日常的な会話そのものが難しくなっていることがあります。
そのようなときには、就職の話をいったん脇に置き、本人が話しやすい話題から関係をつくり直すことが役立つかもしれません。
また、保護者が本人の生活を支えるために無理を重ねている場合には、家族自身の負担を減らす方法を考えることも必要です。
本人が相談を拒否しているからといって、家族まで支援を受けられないわけではありません。
本人を変えることだけが、家族相談の目的ではないのです。
「働くこと」を最初の目標にしなくてもいい
成人した引きこもりの方への支援というと、就職や社会復帰を思い浮かべる方も多いかもしれません。
もちろん、働くことは、経済的な自立や社会とのつながりを得るための重要な選択肢です。
しかし、すべての人にとって、就職が最初に取り組むべき課題とは限りません。
例えば、人との関わりに強い不安がある人にとっては、まず安心して話せる相手を見つけることが必要かもしれません。
生活リズムが大きく乱れている人にとっては、日常生活を整えることが優先される場合もあります。
自分が何をしたいのかわからない人にとっては、興味や関心を整理することから始めるほうがよいかもしれません。
大切なのは、就職という目標を否定することではありません。
そこに至るまでの過程を、一人ひとりに合わせて考えることです。
そして、本人が何を望んでいるのか、どのような生活を送りたいのかを、本人と一緒に考えていく必要があります。
支援とは、本人を変えることだけではない
引きこもりの支援では、「どうすれば本人が変わるのか」という問いが中心になりがちです。
しかし、本人の行動だけに注目していると、家族関係や生活環境など、ほかの重要な問題が見えにくくなることがあります。
例えば、本人が働き始めなくても、家族が経済的な見通しを立てられるようになることで、将来への不安が軽減されるかもしれません。
本人が外出するようにならなくても、親子の会話が増えることで、家庭内の緊張が和らぐかもしれません。
本人がすぐに相談を始めなくても、保護者が自分の生活を取り戻すことで、家族全体の関係が変化することもあります。
こうした変化は、必ずしも「引きこもりの解消」という形では表れません。
それでも、本人や家族の生活を少しでも過ごしやすくするのであれば、大切な支援の成果だと考えられます。
IPELで大切にしていること
IPELでは、不登校や引きこもりの状態にある方を、単に「学校に行けない人」「働いていない人」として捉えるのではなく、一人ひとりの生活や気持ち、これまでの経験を含めて理解することを大切にしています。
成人した引きこもりの方の場合、ご本人と保護者の希望が一致しないことも少なくありません。
そのようなとき、私たちは、どちらか一方の考えだけを正しいものとして扱うのではなく、それぞれが抱えている困りごとを整理しながら、今後の関わり方を一緒に考えていきます。
また、本人が相談することに抵抗を感じている場合には、保護者の方だけでご相談いただくことも可能です。
「本人が働こうとしない」
「将来の話をすると怒ってしまう」
「親として、どこまで生活を支えればいいのかわからない」
「本人は困っていないと言うけれど、家族としては限界を感じている」
こうした悩みについても、臨床心理士が心理学の視点から一緒に考えます。
Fun Stepでは、通所・オンライン・家庭訪問など、それぞれの状況に応じた支援を行っています。
本人を無理に変えようとするのではなく、ご本人とご家族が、それぞれの生活を少しでも過ごしやすくしていくこと。
そのために何ができるのかを、一緒に考えていきたいと思っています。
不登校や引きこもりについてお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
Fun Stepを運営する合同会社アイペル(大阪市淀川区)は、不登校や引きこもりの状態にある方の支援を行っております。
教室への通所やオンライン面談や家庭訪問といった方法で、お困りの方の相談に取り組みます。
当スクールでは、お子様の状態に即した形態での支援をご提供しております!
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